暗黒館の殺人 (上)
暗黒館の殺人 (下)
綾辻 行人 / 講談社
スコア選択: ★★★★
新本格ブームの旗手「綾辻行人」の手がける8年ぶりの館シリーズ第7弾。
前回刊行の「最後の記憶(発売と同時に買ったけど、いまだに未読)」から数えても、実に2年ぶりとなる新作の「暗黒館」です。最初はちょっと読みづらくて、なかなか話しにのめり込めなかったんですが、上巻の中盤アタリからはもう止まらなくて一気読みしてしまいました。
幻想的な雰囲気。魅惑的な登場人物。江戸川乱歩のような怪奇色の色濃い日本古典ミステリを彷彿とさせつつ、長大でありながら一気に読ませるあたりは、さすがと唸らされます。初期に比べて、あきらかに筆力はあがってますよねぇ。特異な死生観を持つ暗黒館の人々のせつなさまで感じさせ、物語に引き込ませます。
ただ、
「驚くポイントは人それぞれ。どこか1つでも驚いてくれれば」
とは作者の弁ですが、私が
どこで一番驚いたかと言えば、
「図面・小野不由美、装丁:京極夏彦」
かな(^^;しかも、小野不由美さんが奥さんだったと言うこと。正直知らんかった。
逆に言うと、今回はミステリとしての驚愕はあまり感じなかったと言うことです。むしろ綾辻氏の1ファンとして、新作小説を楽しんだ気分。
とは言っても、これが現時点での
綾辻行人氏の最高傑作だとの言葉には異論はございません。確かに「館シリーズ」の総決算的なものではあるでしょう。「霧越邸」好きなら、文句なくお勧めです。これを読んで、また全館シリーズを読み返してみたくなりました。今なら、何が一番面白いと感じるんだろう・・・。
他の方の感想は、こんな感じ。
「暗黒館の殺人」(上・下) by minami18th
「暗黒館の殺人」読了 by magimagi7
「暗黒館の殺人」綾辻行人 by kumanomi_s
そして以下は、私のネタバレ感想です。
他の館シリーズについても言及してるので、
館シリーズ全編読破の方以外は読まないように。
ネタバレ危険なんで、文字色を変えておきます。読みたい方は、ドラックしてくださいな。
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読み初めてすぐに「過去が語られていること」は見当が付きました。が、あまりにも伏線張りまくりで、バレバレだったんで、逆に読み進めていくうちに「過去と見せかけておいで、場所が違う現代とか、逆に『未来』とかなんでは?」と疑ったり、「視点」の存在があることから、これは「映画」なのでは?とか思ったり・・・。館シリーズの集大成と言うことで、これまでの館シリーズをミスリードにしつつ、斬新などんでん返しが使われることに期待を寄せたんだけど、残念ながらそれはなく、最後まで予測どおりの結果でした。しかも「視点」に関しては、ある意味アンフェアな解決で裏切ってくれたし。
話が過去である以上「中也」の正体もすぐにわかってしまったのもがっかりでした。まぁ、玄児の固執ぶりを見ると、忠教なのか?と勘繰ったりもしたけど。中也=青司=忠教まで考えてたので、忠教と玄児の入れ替えも「ふーん」てな感じで、他にもダリアの肉とか、双子の正体だとか・・・ほぼすべてが予測の範囲内で「驚き」はありませんでしたね。すべてはぴたりと収まるところに収まったな、と。
だから、この本に対する感想は「時計館」と似たものになるかな。フェアであろうとしすぎて、伏線を張りまくるためか、途中で真相に気付いてしまい楽しめない・・・。あれも、驚きが皆無だったんですよね。だから、私の中で「時計館」の評価は低いんです。作品のせいか、穿った見方をするようになった自分のせいかはわかりませんが、気付かなかった方が幸せだなとつくづく思います。
一方、殺人事件そのもののトリック(抜け道の存在を知りえたものと、鏡のトリック)は、さすがと言うか・・・この壮大な話の全てが、そこに集約されていくわけで、「驚き」はないけれど、凄いなと思っちゃいますね。ただ、犯人の行動心理も伏線通りで、わからなくもないけど、最後に人に見られても闇雲に襲っているところを見ると破綻しているような。あれなら、最初の殺人の時隠れて(抜け道を使って)殺す必要はなかったんじゃ?
色々と不満ばかりですが、じゃぁつまらなかったのか?・・・と言われるとそういうわけでもなく、これだけ夢中に読んだんだから面白かったんだろうと思ってます。でも読んでる最中、嫁から「面白いの?」と何度も聞かれましたが、素直に「うん」とは言えなかったと言うのが正直なところ。万人にお勧めすることは出来ないです。あくまでも「館シリーズ」のファンのための1冊でしょう。
個人的に一番良かったのは、玄遙が生きている・・・ことを明確にしないままな点。これでギリギリ「ホラー」ではなく「ホラー色のミステリ」の領域に留まったと思えたので。
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なにはともあれ、今後の館シリーズも期待しちゃえるデキだったかなとは思いますね。